庭訓往来 6月返   (20180919)

                  送信済みリストに戻る


ただ今使者を差し上げようとしていた所です。
逆に音信をいただき、本懐にふさわしいものとなりました。
大変よろこばしいことです。

そもそも、戦場に御進発なされることにつきましては、
昨晩、初めて承ったところです。

綸旨・院宣は、大かたは決められた作法の通り、
令旨・官符宣は、今、教えることではありません。



〇語句【綸旨】:勅旨(律令制における天皇の命令書である勅書
の一種である公文書)を受けて、蔵人(くろうど:
律令制下の令外官の一つ。天皇の秘書的役割を果たした。)
から出す文書。

〇語句「令外官(りょうげのかん)」:
律令の令制に規定のない新設の官職。
現実的な政治課題に対して、既存の律令制・官制にとらわれず、
柔軟かつ即応的な対応を行うために置かれた。

〇語句【院宣(いんぜん)】:上皇・法皇からの命令を受けた院司が、
奉書形式で発給する文書。天皇の発する宣旨に相当する。
院庁下文よりも私的な形式。

〇語句「院司(いんし、いんのつかさ)」:、日本の中世・古代において、
上皇や女院の直属機関として設置された院庁の職員。
中流貴族が任命されることが多く、他の官職と兼任する兼官だった。



(解釈混乱のため原文のまま):
<大将軍・副将軍の御教書、傍輩軍勢の催促、また信用の限りにあらず。
将軍家の御教書、執事の施行、侍所の奉書は、>

・・・は、諸人の目当てとして手本となり、時の面目です。
一方では目出たい先例、一方では以前からの決まりです。
処置なさるべきです。

反逆の輩においては、後世の人のために、それに与する人々や
発起人の者どもを、残さず罪を咎めて、処刑しなさい。
強盗の党類に至っては、同意・ひいきの徒党を尋ね探って、
からめとるべきです。

生け捕り、武器などの奪い取りは、戦場にあっての要諦、
軍陣における手柄です。よくよく心得るべきです。

(以下、ほとんど武具の名前)

次に武具の事、見苦敷(みぐるしく)候といえども、

紫糸、青黄糸綴、黒糸の鎧、匂肩白、赤革、黄糸腹巻、唐綾、
小桜、黒革威、大荒目の筒丸、?縄目ふしなわめ、紺糸の威、
腹当、星白、竜頭、四方白の甲、おのおの一刎(ひとはね)、
同じ毛の袖、ならびに手蓋、臑当、半首、唾懸、鎖袴、逆頬、箙、
胡?やなぐい、石打の征矢、筋切府、妻黒箆矢、各(おのおの)腰当を相具す。

弓は、本重藤・塗籠・糸裹等なり。弦巻を加うるなり。
太刀は、兵庫鎖・鳥頸、皆彫物。粢鍔、ならびに金作の左右巻、白柄の長刀、

同じく手鉾馬(むま)は、
連銭葦毛、柑子栗毛、烏黒、ひばりげ、黒鴾毛、糟毛、青鵲毛、
髪白、青鼠、月額、葦毛、駮、鹿毛、雪踏等、
舎人、飼口(かいくち)を相副(あいそえ)、

金輻輪の螺鞍、白橋、黒漆張鞍、料の鞍橋、金地の鐙、白磨の轡、
大形の鞦、細筋の手綱、腹帯、豹の皮、?かじかの鞍覆、虎の皮、
鹿子の切付、水豹、熊皮の泥障、鞭、差縄等、

御餞(おんはなむけ)のためにこれを進じ奉る。

兵粮の八木、鞍替の糒袋、行器、野宿の料の雨皮、敷皮、
油単等の雑具、心の及ぶところに、これを奔走す。


以前より、きっと、知っておられることでしょう。
そうして、真っ先に敵中に攻め入ること、武器などの奪い取りは、
武士の名誉です。

夜攻め、敵の背後に回っての攻撃は、軍陣における作戦のかなめです。
一命を捨てて、力の限り努力すれば、証判状(感状)に載せ、
子孫の手本に備えることができます。

(感状:武将が部下の功労、とくに戦功を賞して与える文書。
武士にとって、これを与えられることは最大の名誉とされた。)


心の及ぶ所に従って、適正な具足を尋ね差し上げるべき所でしたが、
折しもあちこち慌ただしく、大体このようなことでございます。

諸々のことはご帰宅の時に期待しています。




マイ意見

〇命令系統の解釈混乱は困る。石川先生の本では、いろいろな意見を書いてある。

安政の大獄の直前に、前例のない勅諭が、
水戸藩に出された事件があった。戊午の密勅(ぼごのみっちょく)

これは要するに、庭訓往来の解釈の混乱そのままに、
古代の律令制を優位に見るか(つまり天皇優位)、
幕藩制優位の現状を肯定的に見るか、という問題に見える。

古代律令制を優位に見た勢力が、天皇勅諭を引き出し、
これまでの幕藩制・現状優位の視点から、その動きを「反逆」と見なしたのが「安政の大獄」の始まり、
と捉えるならば、である。

もちろんそれは、尊王攘夷派から見れば、天皇に対する「反逆」である。
血で血を洗うような幕末の始まりは、私から見れば、思考回路の激突ではないかと思うのだ。

inserted by FC2 system