国際連盟総会に於ける松岡洋右代表の演説     (20211010)

                                       トップページに戻る


ネット上から拝借してきました。全文のさらに下に、やさしく直した通読文を、付けてあります。
通読すれば、国連脱退演説さえも、全く理解されていない、ということを痛感します。


データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所
[文書名] 國際聯盟總會に於ける松岡代表の演説(国際連盟総会に於ける松岡洋右代表の演説

[場所] 
[年月日] 1933年2月24日
[出典] 日本外交年表竝主要文書下巻,外務省,264-268頁.
[備考] 
[全文]
   昭和八年二月二十四日 


 日本代表は旣に十九人委員會の作成せる報吿案に同意し難く從つて之を受諾し得ざる旨を總會に通吿した。

 日本代表はすでに、<19人委員会の作成した報告案に同意し難く、したがってこれを受諾できない旨>を、総会に通告した。


報吿書全體を通じて感知し得る一つの顯著なる事實は、十九人委員會が、
極東の實際的情勢と比類なき且つ戰慄すべき情勢の眞只中にある日本の困難なる立場と、
日本をして從來の行動を執るの已むなきに至らしめた其の最終的目的とを認識しなかつたことである。

 報吿書全体を通じて感知することができる一つの顕著な事実は、十九人委員会が、
 <極東の実際的情勢>と、
 <比類なき、かつ戰慄すべき情勢の真っただ中にある日本の困難な立場>と、
 <日本をして、従来の行動を取ることの止む無きに至らせた、その最終的目的>と
 を、認識しなかったことである。

 

 

報告書


 極東に於ける紛議の根本原因は、支那の無法律的國情と其の隣國への義務を承認せずして
飽くまで自己の意志のみを行はんとする非望之である。支那は今日まで永い間獨立國としての
國際義務を怠つて來て居り、日本は其の最も近い隣國として此の點で最も多大の損害を蒙つて來た。


 極東における紛議の根本原因は、<支那の無法律的な国情>と、
 <その隣国への義務を承認せずして、あくまでも自己の意志のみを行おうとする非望>、
 これである。   (非望:分不相応の大きな望み)

 支那は今日まで永い間、独立国としての国際義務を怠つて来ており、
 日本はその最も近い隣国として、この点で最も多大の損害を蒙つて来た。



 而して滿洲のみが、昨年まで支那の名目のみの主權の下に支那本土と一種の接觸と聯絡を持つこと
により支那の一部分として残っていたものである。満州が完全に支那の主権下にあつたと言ふ如きは
實際的且つ歷史的事實に對する歪曲である。今や此の地方は支那より離れ、獨立國となつた。



 そうして満州のみが、昨年まで支那の名目のみの主権の下に支那本土と一種の接触と連絡を持つこと
 により支那の一部分として残っていたものである。満州が完全に支那の主権下にあったと言うようなことは、
 
 実際的かつ歷史的事実に対する歪曲である。今やこの地方は支那より離れ、独立国となつた。



 滿洲をして法律及び秩序の國たらしめ、平和及び豐潤の地たらしめ、以て單に東部アジアのみならず、
全世界の幸福たらしむることは日本の希望であり決意である。而して此の目的を達成する爲、
日本は永年に亙つて支那と協力せんとする用意を有し、數年に亙つて此の協力を求めて來た。

 満州をして、法律及び秩序の国であるようにし、平和及び豐潤の地であるようにし、
 以て単に東部アジアのみならず、全世界の幸福であるようにすることは、
 日本の希望であり決意である。
 そうしてこの目的を達成するため、日本は永年にわたって支那と協力しようとする用意があり、
 数年にわたってこの協力を求めて来た。



併し乍ら支那は我々の友情と援助を受け容れやうとせず、却つて常に日本に妨害を與へ、
間斷なき紛爭を生ぜしめた。近年殊に國民黨及び國民政府による計晝的排外思想の助長が行はれ、
以來此の對日反對は益々烈しくなり、我々が忍耐を示せば示す程此の反對は激化し、
遂に我々の堪へ得べからざる點に迄達した。

 しかしながら支那は我々の友情と援助を受けいれようとせず、かえって常に日本に妨害を与え、
 間断なき紛爭を生ぜしめた。近年ことに国民党及び国民政府による計画的排外思想の助長が行われ、
 以来、この対日反対はますます激しくなり、我々が忍耐を示せば示す程、この反対は激化し、
 遂に我々が耐えることができない点にまで達した。


日本の讓步に對し支那亦讓步を以て我々を迎ふべきであるのに、
支那は却つて我々の態度を軟弱と解釋し、遂には日本人の滿洲撤退を主張し、
凡ての歷史的背景を無視し、恰も日本人には滿洲に在る理由なきが如く、
日本を目して純然たる又單なる侵略國として非難し、日本は最早同地の開發に携るべからずと主張し始むるに至つた。

 日本の譲歩に対し、支那また譲歩を以て我々を迎うべきであるのに、
 支那はかえって我々の態度を軟弱と解釈し、遂には日本人の満州撤退を主張し、
 すべての歷史的背景を無視し、あたかも日本人には満州にある理由なきが如く、
 日本を目して純然たる又單単なる侵略国として非難し、日本は最早、同地の開発に
 たずさわるべからずと主張し始めるに至つた。


 日本が認めて居る滿洲の重大性に就ては更めて詳說する必要を余は認めない。
總會は最早同地方に於ける日本の經濟的政治的必要を知悉し居るべき筈である
。然し余は、此の重大時機に於て今一度諸君の注意を喚起したい。
卽ち日本は滿洲に於て二回の戰爭をなし、而も其の一つに於ては日本國民の存立を賭したのである。
日本は最早戰爭を欲しない、國際平和は互讓を基礎としてのみ贏ち得られることは眞實である。
然し乍ら何れの國もその存立の爲め到底讓步も妥協も不可能な死活問題を持つて居る。
滿洲問題は卽ちそれである。同問題は日本國民にとつて實に生死に關する問題とされてゐるのである。


 日本が認めている満州の重大性については、あらためて詳説する必要を、余は認めない。
 総会は最早、同地方における日本の経済的政治的必要を知悉し居るべき筈である。
 しかし余は、此の重大時機において今一度諸君の注意を喚起したい。

 即ち日本は満州において二回の戦争をなし、しかもその一つにおいては、日本国民の存立を賭したのである。
 日本は最早戦争を欲しない、国際平和は互讓を基礎としてのみ勝ち得られることは真実である。

 しかしながら、いずれの国もその存立のため、到底、譲歩も妥協も不可能な死活問題を持っている。
 滿洲問題は即ちそれである。同問題は日本国民にとって、実に生死に関する問題とされているのである。


 世界の諸國は永い間假想の下に支那を取扱つて來た、我々は遙か以前に聯盟規約第一條の聯盟國たるべき國、
屬領及び植民地は「完全な自治國」たるべきを要することを規定して居ることに氣が附くべきであつた。
支那は斯る國ではない、支那本土以外では支那の主權は久しい以前に消失してしまひ、
又支那本土內でも之を統治するに足る權威と能力を有する組織ある政府は存在しなかつた。
南京政府は今日、支那本土十八省の中僅かに四省に足りない地域の事務を執行するのみである。
世界は斯の如き假想の支那を對𧰼として聯盟に對し條約の文面を維持することを要求した。
斯る誤れる主義に危險が存在するのである。

 世界の諸国は長い間、仮想の下に支那を取扱って来た。我々は遙か以前に連盟規約第一条の連盟国たるべき国、
 属領及び植民地は「完全な自治国」たるべきを要することを規定して居ることに気が付くべきであつた。

 支那はかかる国ではない、支那本土以外では支那の主権は久しい以前に消失してしまい、
 又、支那本土內でもこれを統治するに足る、権威と能力を持っている、組織ある政府は存在しなかった。

 南京政府は今日、支那本土十八省の中、わずかに四省に足りない地域の事務を執行するのみである。
 世界はこのような仮想の支那を対象として、連盟に対し、条約の文面を維持することを要求した。
 このような誤った主義に危険が存在するのである。


 日本が過去に於ても又將來に於ても、極東の平和及秩序並に進步の柱石たることは日本政府の堅き信念である。
若し日本が滿洲國の獨立の維持を主張するとすれば、その現在の情勢では滿洲國の獨立のみが
極東に於ける平和と秩序への唯一の保障を與へるものであるとの堅い信念によるものである。

 日本が過去において又将来においても、極東の平和及び秩序、並びに進歩の柱石たることは、
 日本政府の堅い信念である。

 もし日本が満州国の独立の維持を主張するとすれば、
 <その現在の情勢では、満州国の独立のみが、極東における平和と秩序への、
 唯一の保障を与えるものである>、
 との、堅い信念によるものである。


 現在の日支紛爭勃發以後に於てすら日本は和協の政策を持續した、從つて若し支那が其時に於て
事態の實體を認識し協定に到達せんとする眞摯なる希望を以て日本との交涉を受諾したならば、
大なる困難なくして協定を締結し得たであらう。然るに支那は此の方法を撰ばずして聯盟に訴へ、
聯盟を構成する列國の干涉によつて日本の手足を縛せんとした。
而して聯盟は紛爭中に含まれたる眞實の問題と極東の實際的情勢とを十分諒解せず、
更に恐らく支那の眞の動機につき何等の疑を挿まずして支那を鼓舞激勵した。
支那が聯盟に訴へたのは、諸君が聽かされる如く決して平和愛好と國際原則に忠實ならんとする精神を
其の動機としてゐるものではない。他國より多くの軍人を有する國は平和の國民でない、
國際誓約を慣習的に破つた國は國際原則を尊重する國民でない。

 現在の日支紛争勃発以後においてすら、日本は和協の政策を持続した。したがってもし支那がその時において
 事態の実態を認識し、協定に到達しようとする真摯な希望をもって、日本との交渉を受諾したならば、
 大きな困難なくして協定を締結することができただろう。

 それなのに支那はこの方法を選ばずに連盟に訴え、
 連盟を構成する列国の干渉によつて日本の手足を縛ろうとした。

 そうして連盟は、紛争中に含まれている真実の問題と、極東の実際的情勢とを十分了解せず、
 さらに恐らく、支那の真の動機について何等の疑いをはさまず支那を鼓舞激励した。

 支那が連盟に訴えたのは、諸君が聞かされるような、決して平和愛好と国際原則に忠実であろうとする精神を、
 その動機としているものではない。

 他国より多くの軍人を持つ国は、平和の国民ではない。
 国際誓約を慣習的に破つた国は、国際原則を尊重する国民ではない。


 リットン報吿書の或る部分は其の性質に於て皮相的であり、屢問題の根柢を窮めることが出來なかつた。
滿洲國の人民の大多數は支那の人民とは明確に相違してゐる。
滿洲人口の大半は正しくは滿洲人と稱すべきものより成る、
それは舊滿洲族の子孫並に昔の滿洲族と同化した支那民族並に蒙古人から成つてゐるのである。
之等人民の大多數は未だ曾て支那に居住したこと無く、
支那に對しリットン報吿書の記述してゐるが如き愛着は全然持つてゐないのである。
此の點に關し報吿書は明瞭に誤謬に陷つてゐる。

 リットン報告書のある部分は、その性質において皮相的であり、
 しばしば問題の根柢をきわめることができなかった。

 満州国の人民の大多数は支那の人民とは明確に相違している。
 満州人口の大半は正しくは満州人と称すべきものよりなる。

 それは旧満州族の子孫、並びに昔の満州族と同化した支那民族、並びに蒙古人から
 成つているのである。
 これら人民の大多数は未だかつてて支那に居住したことはなく、
 支那に対しリットン報吿書の記述しているような愛着は、全然持つていないのである。
 この点に関し、報吿書は、明瞭に誤謬に陥っている。


 十九人委員會の報吿書に關しては余は批判的見解を述べざるを得ないものである。
我が國の滿洲に於ける善き事業は記錄に留る所である、
我々は過去現在を通じ此の未開地域に於ける一大文化的安定的原動力である。
若し十九人委員會にして我々が如何に滿洲人に利益を與へたるかを知り、
且つ諒解してゐたならば、同委員會は其の見解を改め、斯る事業に好意的意見をなしたであらう。

 十九人委員会の報告書に関して、余は批判的見解を述べざるを得ないものである。
 我が国の満州における善き事業は記録に留る所である。
 我々は過去現在を通じ、この未開地域における一大文化的安定的原動力である。
 もし十九人委員会にして、我々がいかに満州人に利益を与えたるかを知り、
 かつ了解していたならば、同委員會はその見解を改め、かかる事業に好意的意見をなしたであろう。


 次ぎにリットン調査委員會の提出した諸勸吿に轉じやう。
此等の勸吿の充分なる意義は今我々の前に置かれた報吿書草案(十九人委員會)の中に於ては看過されて
居るやうである。余は特にリットン報吿書第九章に包含されてゐる第十、
卽ち最終の原則に言及するものである。右原則は左の通りである。

 次にリットン調査委員会の提出した諸勧告に転じよう。
 これらの勧告の充分なる意義は、今我々の前に置かれた報吿書草案(十九人委員会)の中
 においては看過されているようである。余は特にリットン報吿書第九章に包含されている第十、
 即ち最終の原則に言及するものである。右原則は左の通りである。


 「支那の改造に關する國際的協力、支那に於ける現在の政治的不安定は日本との友好關係に對する障碍であり、
且つ極東に於ける平和の維持が國際的關心事たる關係上世界の他の部分に對する危惧であると共に、
敍上の條件は支那に强固な中央政府が確立されなければ實行することが出來ないから、
滿足なる解決の最終的要件は故孫逸仙博士が提議した通り、支那の內部的改造に對する一時的の國際協力である。」

 「支那の改造に関する国際的協力、支那における現在の政治的不安定は、日本との友好関係に対する障害であり、
 かつ極東における平和の維持が国際的関心事たる関係上世界の他の部分に対する危惧であると共に、
 先に述べた條件は、支那に強固な中央政府が確立されなければ、実行することが出来ないから、
 満足なる解決の最終的要件は、故孫逸仙博士が提議した通り、
 支那の內部的改造に対する一時的の国際協力である。」


 余はこの明確な警告を、慎重に考慮せんことを連盟に要請するものである。
 余はこの明確な警告を、慎重に考慮せんことを連盟に要請するものである。

 余は聯盟が單に支那に對して專門委員會を派遣し、當惑した政府に對し衞生、
敎育、鐵道、財政其の他の行政部門に關する忠言を提出することに依つて、
支那を一變させることが出來るとの忠吿乃至希望に依つて誤られないことを要請するも、
余は余の支那の同僚に對し一の決定的質問を提起せんとするものである。
卽ち支那政府には究局迄突き詰めれば、結局支那に對して何等かの形式に於ける國際的管理を
課せんとすることを豫定する勸吿を受諾する用意が果してあるのであるか。
貴下は此の報吿書草案の表決を爲さんとする總會各代表の前に、此の點に關する貴國政府の立場を
明確にせられるのであるか。


 余は連盟が単に支那に対して専門委員会を派遣し、当惑した政府に対し衞生、
 敎育、鉄道、財政その他の行政部門に関する忠言を提出することによって、
 支那を一変させることが出来るとの忠告ないし希望によって誤られないことを要請するも、
 余は余の支那の同僚に対し一の決定的質問を提起せんとするものである。

 即ち支那政府には究局まで突き詰めれば、結局支那に対して何等かの形式における国際的管理を
 課せんとすることを予定する勧告を受諾する用意が果してあるのであるか。

 貴下はこの報吿書草案の表決をなさんとする総会各代表の前に、この点に関する貴国政府の立場を
 明確にせられるのであるか。


 本報吿書を採擇する時は、支那側に對し彼等が一切の責任を許され、從つて依然として日本を蔑視し、
而も何等の非難を受けずして濟むとの印𧰼を與へるであらう。更にそれは利害が密接に交錯してゐる
日支兩國人の感情を更に惡化せしめるに過ぎないであらう。兩國民は友人たるべきものであり、
其の共同の安寧の爲に相互に協力すべきものである。諸卿の前に置かれた報吿書の採擇により、
總會は我々卽ち日本人と支那人との何れに對しても如上目標への道程に於て助力を與へるものではなく、
且つ平和の大業にも資する所無く、支那に於ける受難の大衆の利益にも貢獻する所は無いのである。

 本報告書を採択する時は、支那側に対し彼等が一切の責任を許され、したがって依然として日本を蔑視し、
 しかも何等の非難を受けずして済むとの印𧰼を与えるであろう。さらにそれは、利害が密接に交錯している
 日支両国人の感情をさらに悪化せしめるに過ぎないであろう。両国民は友人たるべきものであり、
 その共同の安寧のために相互に協力すべきものである。諸卿の前に置かれた報吿書の採択により、
 総会は我々即ち日本人と支那人との何れに対しても、上述の目標への道程において、助力を与えるものではなく、
 かつ平和の大業にも資する所無く、支那における受難の大衆の利益にも貢献する所は無いのである。


 報吿書草案は更に多少とも實效的な樣式に於て滿洲に支那の主權を確立することを期したものである。
換言すれば報吿書草案は支那が從前未だ嘗て有してゐなかつた權力と勢力とを滿洲に導入せん
と期するものである。我々は茲に靜思一番し、斯る事が果して理義に適つてゐるか否かを
反問すべきではないか。更に報吿書は支那の煽動家の爲に新な途を拓き徒に事態を紛糾せしめ、
斯くして新たなる恐らくは更に險惡なる破局を招來するに過ぎないであらう。


 報告書草案は、さらに多少とも実効的な樣式において、満州に支那の主権を確立することを、期したものである。
 換言すれば報告書草案は支那が従前、未だ嘗て有していなかつた権力と勢力とを満州に導入せん
 と期するものである。

 我々はここに静思一番し、かかる事が果して理義に適つているか否かを
 反問すべきではないか。さらに報告書は支那の煽動家のために新な道を拓き、いたずらに事態を紛糾せしめ、
 かくして新たなる、恐らくはさらに険悪なる破局を招来するに過ぎないであろう。

 報吿書草案は滿洲全土にある程度の國際管理を確立せんとしてゐる、
而も斯る管理は過去並現在を通じて滿洲に存在しなかつたのである。
何を根據として此の企圖を敢てせんとするのであるか、余の解するに苦しむ所である。
米國人はパナマ運河地帶に斯る管理を設定することに同意するであらうか。
英國人は之をエヂプトに於て許容するであらうか。何れにせよ、諸卿は如何にして之を實行せん
とするのであるか。諸君の政府の何れが、犧牲を伴ふこと確實な重大責任を執つて此の任に當らん
とするのであるか。此の點に關し余は斷然日本國民が、余に取つて餘りに明白で說明の必要すら認めない
理由に基き、滿洲に於ける一切の此の種の企圖に反對するであらうことを明言せんとするものである。

 報告書草案は満州全土にある程度の国際管理を確立せんとしている、
 しかもかかる管理は、過去並びに現在を通じて、満州に存在しなかつたのである。

 何を根拠としてこの企図をあえてせんとするのであるか、余の解するに苦しむ所である。
 米国人はパナマ運河地帯にかかる管理を設定することに同意するであろうか。
 英国人はこれをエジプトにおいて許容するであろうか。何れにせよ、諸卿は如何にして之を実行せん
 とするのであるか。諸君の政府の何れが、犧牲を伴ふこと確実な重大責任を執つて此の任に当たらん
 とするのであるか。この点に関し余は断然日本国民が、余に取つて余りに明白で説明の必要すら認めない
 理由に基き、満州における一切のこの種の企図に反対するであろうことを明言せんとするものである。



 旣に述べた如く且つ旣に或る程度まで述べた理由に依り、日本が置かれてゐる現實の事情の下に於て、
我々の前に置かれた報吿書草案に關し日本として他に選ぶべき道がないのである。
聯盟は日本に對し他に何等の道をも殘してゐない、日本は卽座に且つ明確に「否」と答へぎるを得ない。
紳士諸君、我々の希望は力の及ぶ限り支那を援助せんとするにある、
之は我々が爲さねばならぬ義務である。此の聲明は此の際或は諸卿に對して逆說の如くに
聞えるかも知れないが、而も之は眞實である。


 既に述べた如く、かつ既にある程度まで述べた理由により、日本が置かれている現実の事情の下において、
 我々の前に置かれた報告書草案に関し日本として他に選ぶべき道がないのである。
 連盟は日本に対し他に何等の道をも残していない。日本は即座にかつ明確に「否」と答へざるを得ない。
 紳士諸君、我々の希望は力の及ぶ限り支那を援助せんとするにある。
 これは我々がなさねばならぬ義務である。この声明はこの際、あるいは諸卿に対して逆説の如くに
 聞こえるかも知れないが、しかもこれは真実である。


 而して我々は現在不幸にして滿洲國に關し意見を異にして居るのであるが、
而も滿洲國の自立を助けんとしつゝある現在の我々の努力は、
やがて後は支那を援助せんとする日本の願望と義務とを實現する契機となり、
之によつて東亞を通じて平和の確立に成功するに至るべきことを余は確信する。

 そうして我々は現在不幸にして満州国に関し意見を異にしているのであるが、
 しかも満州国の自立を助けんとしつゝある現在の我々の努力は、
 やがて後は支那を援助せんとする日本の願望と義務とを実現する契機となり、
 これによつて東亜を通じて平和の確立に成功するに至るべきことを、余は確信する。

 余は此の機關(聯盟)に對し、事實を認識し將來の理想を直視せんことを乞ふものである。
余は諸卿に對し、諸卿が我々の言に基いて我々を取扱ひ且つ信賴せられんことを願ふものである。
此の我々の要望を拒否することは大なる過誤となるであらう。
余は諸卿に此の報吿を採擇せざらんことを要請するものである。


 余はこの機関(連盟)に対し、事実を認識し将来の理想を直視せんことを乞ふものである。
 余は諸卿に対し、諸卿が我々の言に基いて我々を取扱い、かつ信頼せられんことを願うものである。
 この我々の要望を拒否することは、大なる過誤となるであらう。
 余は諸卿にこの報告を採択せざらんことを要請するものである。



 松岡代表宣言書

   報吿書の採擇に續き松岡首席代表が朗讀した宣言全文左の如し 

     報告書の採択に続き松岡首席代表が朗読した宣言全文左の如し

 報吿書草案が今この總會によつて採擇されたことは、
日本代表部並に日本政府にとり深く遺憾とするところである。
日本は國際聯盟創立以來その一員である、一九一九年パリ會議の我が代表は聯盟規約の起草に參加した、
我々は聯盟の一員として人類共同の一大目的の爲に世界の指導的國家と相協力して來たことを誇りとするものである、
日本は外の同僚聯盟國と共に人類共同の然く永く抱懷されたる一大目的を達成するに努めて來たのである。

   報告書草案が今この総会によつて採択されたことは、
   日本代表部並びに日本政府にとり、深く遺憾とするところである。
   日本は国際連盟創立以来その一員である、一九一九年パリ会議の我が代表は、連盟規約の起草に参加した、
   我々は連盟の一員として人類共同の一大目的のために世界の指導的国家と相協力して来たことを誇りとするものである、
   日本は外の同僚連盟国と共に人類共同のそのように永く抱懷されたる一大目的を達成するに努めて来たのである。

余は同一の目的卽ち恒久平和の確立を見んとする希望が、
總て我々の審議並に行動に際して我々の總てを動かしてゐることを疑はぬものであるが故に、
今我々が當面しつつある情勢を深く遺憾とするものである。日本の政策が極東における平和を保障し、
斯くして全世界を通じて平和の維持に貢獻せんとする純眞なる希望によつて根本的に鼓吹されてゐるものである
ことは周知の事實である。

 余は同一の目的即ち恒久平和の確立を見んとする希望が、
 すべて我々の審議並び行動に際して、我々のすべてを動かしていることを疑わないものであるが故に、
 今我々が當面しつつある情勢を深く遺憾とするものである。

 日本の政策が極東における平和を保障し、かくして全世界を通じて平和の維持に貢献せんとする
 純眞なる希望によつて根本的に鼓吹されてゐるものであることは周知の事実である。


然しながら總會によつて採擇された報吿書を受諾することは爲し能はざるところであり、
特に右報吿書に包含された勸吿が世界の此の部分(極東)に於ける平和を確保するものと思惟し得ないものである
ことを指摘せざるを得ない。之は日本の苦痛とするところである、日本政府は今や極東に於て平和を達成する
樣式に關し、日本と他の聯盟國とが別個の見解を抱いて居るとの結論に達せさるを得ず。
然して日本政府は日支紛爭に關し國際聯盟と協力せんとする其の努力の限界に達したことを感ぜざるを得ない。

 しかしながら総会によつて採択された報告書を受諾することは、なし能わざるところであり、
 特に右報告書に包含された勧告が世界のこの部分(極東)における平和を確保するものと思惟し得ないものである
 ことを指摘せざるを得ない。
 これは日本の苦痛とするところである、日本政府は今や極東に於て平和を達成する
 樣式に関し、日本と他の連盟国とが別個の見解を抱いているとの結論に達せさるを得ず。
 そうして日本政府は日支紛争に関し、国際連盟と協力せんとするその努力の限界に達したことを感ぜざるを得ない。


 然しながら日本政府は極東に於ける平和の確立並に他國との間に於ける親善良好關係の維持並に强化の爲には
依然最善の努力を盡すであらう。余は日本政府が飽くまで人類の福祉に貢獻せんとする其の希望を固持し、
世界平和に捧げられる事業に誠心誠意協力せんとする政策を持續すべきことを、こゝに付言する必要はあるまいと信ずる。

   しかしながら日本政府は極東における平和の確立並びに他国との間における親善良好関係の維持並びに強化のためには
   依然最善の努力を尽くすであろう。余は日本政府があくまで人類の福祉に貢献せんとするその希望を固持し、
   世界平和に捧げられる事業に、誠心誠意協力せんとする政策を持続すべきことを、
   ここに付言する必要はあるまいと信ずる。


    (以下は、上記の松岡演説を、さらに読みやすくした文)


国際連盟総会に於ける松岡洋右代表の演説


日本代表はすでに、<19人委員会の作成した報告案に同意し難く、したがってこれを受諾できない旨>を、総会に通告した。

報吿書全体を通じて感知することができる一つの顕著な事実は、十九人委員会が、
 <極東の実際的情勢>と、
 <比類なき、かつ戦慄すべき情勢の真っただ中にある日本の困難な立場>と、
 <日本をして、従来の行動を取ることの止む無きに至らせた、その最終的目的>と
 を、認識しなかったことである。
 


報告書

 極東における紛議の根本原因は、<支那の無法律的な国情>と、
 <その隣国への義務を承認せずして、あくまでも自己の意志のみを行おうとする非望>、
 これである。   (非望:分不相応の大きな望み)

 支那は今日まで永い間、独立国としての国際義務を怠つて来ており、
 日本はその最も近い隣国として、この点で最も多大の損害を蒙つて来た。

 そうして満州のみが、昨年まで、支那の名目のみの主権の下に、支那本土と一種の接触と連絡を持つこと
 により、支那の一部分として残っていたものである。

 満州が完全に支那の主権下にあったと言うようなことは、実際的かつ歴史的事実に対する歪曲である。
 今やこの地方は支那より離れ、独立国となつた。


 満州をして、法律及び秩序の国であるようにし、平和及び豊潤の地であるようにし、
 以て単に東部アジアのみならず、全世界の幸福であるようにすることは、
 日本の希望であり決意である。

 そうしてこの目的を達成するため、日本は永年にわたって支那と協力しようとする用意があり、
 数年にわたってこの協力を求めて来た。

 しかしながら支那は、我々の友情と援助を受けいれようとせず、かえって常に日本に妨害を与え、
 間断なき紛爭を生ぜしめた。

 近年ことに国民党及び国民政府による計画的排外思想の助長が行われ、
 以来、この対日反対はますます激しくなり、我々が忍耐を示せば示す程、この反対は激化し、
 遂に我々が耐えることができない点にまで達した。

 日本の譲歩に対し、支那また譲歩を以て我々を迎うべきであるのに、
 支那はかえって我々の態度を軟弱と解釈し、

 遂には日本人の満州撤退を主張し、すべての歷史的背景を無視し、
 あたかも日本人には満州にある理由なきが如く、
 日本を目して純然たる、又単なる侵略国として非難し、日本は最早、同地の開発に
 たずさわるべからずと主張し始めるに至つた。

 日本が認めている満州の重大性については、あらためて詳説する必要を、余は認めない。

 総会は最早、同地方における日本の経済的政治的必要を知悉し居るべき筈である。
 しかし余は、此の重大時機において、今一度諸君の注意を喚起したい。

 即ち日本は、満州において二回の戦争をなし、しかもその一つにおいては、日本国民の存立を賭したのである。
 日本は最早戦争を欲しない。国際平和は、互讓を基礎としてのみ勝ち得られることは、真実である。

 しかしながら、いずれの国もその存立のため、到底、譲歩も妥協も不可能な死活問題を持っている。
 満州問題は即ちそれである。同問題は日本国民にとって、実に生死に関する問題とされているのである。

 世界の諸国は長い間、仮想の下に支那を取扱って来た。

 我々ははるか以前に、連盟規約第一条の、連盟国たるべき国、属領及び植民地は、
 <「完全な自治国」たるべきを要すること>を規定していることに、気が付くべきであつた。

 支那は、そのような国ではない。支那本土以外では、支那の主権は久しい以前に消失してしまい、
 又、支那本土內でも、これを統治するに足る、
 <権威と能力を持っている組織がある政府>は、存在しなかった。

 南京政府は今日、支那本土十八省の中、わずかに四省に足りない地域の事務を執行するのみである。

 世界はこのような仮想の支那を対象として、連盟に対し、条約の文面を維持することを要求した。
 このような誤った主義に危険が存在するのである。

 日本が過去において、又、将来においても、極東の平和及び秩序、並びに進歩の柱石たることは、
 日本政府の堅い信念である。

 もし日本が満州国の独立の維持を主張するとすれば、

  <この現在の情勢では、満州国の独立のみが、極東における平和と秩序への、
    唯一の保障を与えるものである>、

 との、堅い信念によるものである。

 現在の日支紛争勃発以後においてすら、日本は和協の政策を持続した。

 したがってもし支那がその時において、事態の実態を認識し、
 協定に到達しようとする真摯な希望をもって、日本との交渉を受諾したならば、
 大きな困難なくして、協定を締結することができただろう。

 それなのに支那はこの方法を選ばずに連盟に訴え、
 連盟を構成する列国の干渉によつて日本の手足を縛ろうとした。

 そうして連盟は、紛争中に含まれている真実の問題と、極東の実際的情勢とを十分了解せず、
 さらに恐らく、支那の真の動機について、何等の疑いをはさまず、支那を鼓舞激励した。

 支那が連盟に訴えたのは、諸君が聞かされるような、
 <平和愛好と国際原則に忠実であろうとする精神をその動機としている>ものでは、決してない。

 他国より多くの軍人を持つ国は、平和の国民ではない。
 国際誓約を慣習的に破つた国は、国際原則を尊重する国民ではない。

 リットン報告書のある部分は、その性質において皮相的であり、
 しばしば問題の根柢をきわめることができなかった。

 満州国の人民の大多数は支那の人民とは明確に相違している。
 満州人口の大半は、正しくは満州人と称すべきものよりなる。

 それは旧満州族の子孫、並びに昔の満州族と同化した支那民族、並びに蒙古人から
 成っているのである。

 これら人民の大多数は、未だかつてて支那に居住したことはなく、
 支那に対し、リットン報吿書の記述しているような愛着は、全然持っていないのである。
 この点に関し、報吿書は、明瞭に誤謬に陥っている。

 十九人委員会の報告書に関して、余は批判的見解を述べざるを得ないものである。

 我が国の満州における善き事業は記録に留る所である。
 我々は過去現在を通じ、この未開地域における一大文化的安定的原動力である。

 もし十九人委員会にして、我々がいかに満州人に利益を与えたるかを知り、
 かつ了解していたならば、同委員会はその見解を改め、かかる事業に好意的意見をなしたであろう。

 次にリットン調査委員会の提出した諸勧告に転じよう。

 これらの勧告の充分なる意義は、今我々の前に置かれた報吿書草案(十九人委員会)の中
 においては看過されているようである。

 余は特にリットン報吿書第九章に包含されている第十、
 即ち最終の原則に言及するものである。右原則は左の通りである。

   「支那の改造に関する国際的協力、支那における現在の政治的不安定は、日本との友好関係に対する障害であり、

   かつ極東における平和の維持が国際的関心事たる関係上、世界の他の部分に対する危惧であると共に、

   先に述べた條件は、支那に強固な中央政府が確立されなければ、実行することが出来ないから、

   満足なる解決の最終的要件は、故・孫逸仙博士が提議した通り、

   支那の內部的改造に対する一時的の国際協力である。」

余はこの明確な警告を、慎重に考慮せんことを連盟に要請するものである。

 余は、連盟が単に支那に対して専門委員会を派遣し、当惑した政府に対し、衞生、
 敎育、鉄道、財政その他の行政部門に関する忠言を提出することによって、
 支那を一変させることが出来る、

 との、忠告ないし希望によって、誤られないことを要請するも、
 余は、余の支那の同僚に対し、一の決定的質問を提起せんとするものである。

 即ち支那政府には、究局まで突き詰めれば、

 結局支那に対して、何等かの形式における国際的管理を課せんとすることを予定する勧告を、

 受諾する用意が、果してあるのであるか。

 貴下はこの報吿書草案の表決をなさんとする総会各代表の前に、
 この点に関する貴国政府の立場を、明確にせられるのであるか。

 本報告書を採択する時は、支那側に対し、
 彼等が一切の責任を許され、したがって依然として日本を蔑視し、しかも何等の非難を受けずに済む、
 との印𧰼を与えるであろう。

 さらにそれは、利害が密接に交錯している日支両国人の感情をさらに悪化せしめるに過ぎないであろう。

 両国民は友人たるべきものであり、その共同の安寧のために相互に協力すべきものである。

 諸卿の前に置かれた報吿書の採択により、総会は我々即ち日本人と支那人との何れに対しても、
 上述の目標への道程において、助力を与えるものではなく、かつ平和の大業にも資する所無く、
 支那における受難の大衆の利益にも、貢献する所は無いのである。

 報告書草案は、さらに多少とも実効的な樣式において、
 満州に支那の主権を確立することを、期したものである。

 換言すれば、報告書草案は、支那が以前、未だ嘗て持っていなかった権力と勢力とを、
 満州に導入せんと期するものである。

 我々はここに静思一番し、かかる事が果して理義にかなっている否かを、反問すべきではないか。

 さらに報告書は支那の煽動家のために新な道を拓き、いたずらに事態を紛糾せしめ、
 かくして新たなる、恐らくはさらに険悪なる破局を招来するに過ぎないであろう。

 報告書草案は満州全土にある程度の国際管理を確立せんとしている。
 しかもかかる管理は、過去並びに現在を通じて、満州に存在しなかったのである。

 何を根拠としてこの企図を、あえてせんとするのであるか。余の解するに苦しむ所である。

 米国人はパナマ運河地帯にかかる管理を設定することに同意するであろうか。
 英国人はこれをエジプトにおいて許容するであろうか。

 何れにせよ、諸卿はいかにしてこれを実行しようとするのであろうか。
 諸君の政府の何れが、犠牲を伴うこと確実な重大責任を執って、この任に当たらんとするのであるか。

 この点に関し、余は断然、日本国民が、余にとって余りに明白で説明の必要すら認めない理由に基き、
 満州における一切のこの種の企図に、反対するであろうことを、明言せんとするものである


 既に述べた如く、かつ既にある程度まで述べた理由により、
 日本が置かれている現実の事情の下において、
 我々の前に置かれた報告書草案に関し、日本として他に選ぶべき道がないのである。

 連盟は日本に対し、他に何等の道をも残していない。日本は即座にかつ明確に「否」と答えざるを得ない。

 紳士諸君、我々の希望は、力の及ぶ限り支那を援助せんとするにある。
 これは我々がなさねばならぬ義務である。

 この声明はこの際、あるいは諸卿に対して逆説の如くに聞こえるかも知れないが、
 しかもこれは真実である。

 そうして我々は現在、不幸にして満州国に関し意見を異にしているのであるが、
 しかも満州国の自立を助けんとしつゝある現在の我々の努力は、

 やがて後は、支那を援助せんとする日本の願望と義務とを実現する契機となり、
 これによって東亜を通じて平和の確立に成功するに至るはずであることを、余は確信する。

 余はこの機関(連盟)に対し、事実を認識し将来の理想を直視せんことを乞ふものである。
 余は諸卿に対し、諸卿が我々の言に基いて我々を取扱い、かつ信頼せられんことを願うものである。

 この我々の要望を拒否することは、大なる過誤となるであらう。
 余は諸卿に、この報告を採択しないことを要請するものである。


 松岡代表宣言書

報告書の採択に続き松岡首席代表が朗読した宣言全文左の如し

   報告書草案が今この総会によつて採択されたことは、
   日本代表部並びに日本政府にとり、深く遺憾とするところである。

   日本は国際連盟創立以来その一員である。一九一九年パリ会議の我が代表は、連盟規約の起草に参加した。

   我々は連盟の一員として、人類共同の一大目的のために、
   世界の指導的国家と相協力して来たことを誇りとするものである、

   日本は外の同僚連盟国と共に、<人類共同のそのように長く抱懐されたる一大目的を達成>
   するのに努めて来たのである。

   余は同一の目的、即ち<恒久平和の確立を見んとする希望>が、
   <すべて我々の審議並び行動に際して、我々のすべてを動かしていることを疑わないもの>であるが故に、
   今我々が当面しつつある情勢を、深く遺憾とするものである。

 日本の政策が、極東における平和を保障し、かくして全世界を通じて平和の維持に貢献せんとする
 純眞なる希望によつて根本的に鼓吹されてゐるものであることは、周知の事実である。

 しかしながら、総会によつて採択された報告書を受諾することは、なし能わざるところである。

 特に右報告書に包含された勧告が、<世界のこの部分(極東)における平和を確保するものとは、考えられない>
 ことを指摘せざるを得ない。

 これは日本の苦痛とするところである。

 日本政府は今や極東に於て平和を達成する様式に関し、
 日本と他の連盟国とが、別個の見解を抱いているとの結論に達せさるを得ない。

 そうして日本政府は、日支紛争に関し、国際連盟と協力せんとするその努力の、
 限界に達したことを感ぜざるを得ない。

  しかしながら日本政府は、極東における平和の確立、並びに他国との間における親善良好関係の維持、
  並びに強化のためには、 依然、最善の努力を尽くすであろう。

  余は、日本政府が <あくまで人類の福祉に貢献せんとするその希望を固持し、
  世界平和に捧げられる事業に、誠心誠意協力せんとする政策を持続すべき>ことを、
  ここに付言する必要はあるまいと信ずる。






inserted by FC2 system